ある現地人つづき
彼は離婚直後に元ヨメが再婚したことを知り、失意の中で、このままではやけになって花火師の道に陥る恐れを感じたという。そこらの市場で普通に安価でさまざまな花火が売られていて、いつでも手軽に花火を上げられるこの環境の中にいてはよくないと、出国を決意。花火の盛んな中、陸路、隣国に向かったという。そこでは、4人2組体制でひたすら鶏肉をさばきまくる仕事を得て3ヶ月と18日間、働きまくったという。帰国してしばらくしたところでここの仕事を得たらしい。
この国では、家事は女の仕事、という意識の人間がほとんどで、ここのスタッフもほとんどがそうした考えを持っている。当然、家事の手伝いもしていないので包丁の使い方も全く知らなかったりする。大工仕事のような力仕事など、ここでは男の仕事とされていることはほとんどの男ができて、連中はそのことを自慢している。金を稼いでくるのも男の仕事で、家族に食わせてやれないようでは男ではない、という社会である。
あるスタッフはしばらく前、金がないことをヨメに責められ、頭に来てひっぱたいたところ実家に帰られて、子どもに会えない困った困ったと言っていたが、ヨメも働けばいいのに、と私が言ったら、とんでもない、それは男の仕事だ、と強がっていた。この男がたとえばせめて家で料理くらいしていれば料理人の仕事が見つかるかもしれないのだが、とんでもない、それは女の仕事だ、といってやらないので、結局つぶしのきかない男ができあがる。みんながみんなこんな調子で、できることも同じなので、コネでもなければそんな奴のところに仕事はこない。このスタッフは掃除人だったが、キッチンスタッフがごっそり去った際に運良く緊急的にキッチンスタッフに異動し、給料も1.5倍ほどになったが、そんな運は長くは続かない。
さて、本題の料理人はこの国ではめずらしく、家事はヨメといっしょにやっていたという。自分が仕事で忙しかったり、病気にでもなったらヨメが働けばいいし、逆なら逆で自分が働くし家事もやる、と彼は言う。ヨメが家の中で家事ばかりやっていたら頭が固くなってよくない、といい、仕事を持っている女性の方が話も面白いしお互い刺激しあえてよいよな、という私の話にも同意している。頭が柔らかいかというと、しょうもないイスラム戒律でがちがちだったりもするのだが、仕事には熱心だし知らないことを知ろうとしたりはするので、いろいろと話をするよい相手になっている。
彼は、知ってる知ってる、できるできる、といいたがる傾向があり、この点がよろしくない。前に友人が、2000米ドル払えば近隣の国の大都市で何かのプロモーション映像に歌い手の一人として参加できるという話を持ってきたが、金がないので残念ながら断った、といい、出ていればそれを見た人からスカウトが来てそのうちビッグになれるのに、という夢物語をしだして、私は、お前、それインチキだろ、とは言っておいたが、彼は、俺は歌も歌えるのだ、と言って笑うだけであった。堅実なタイプなのか何なのか分からないところがあり、小金を稼いでだまされてすっからかんになるくらいなら、今のようにかつかつのままでいたほうがいいんじゃないか、などと、彼の作った夜食を食いながら私は思った。

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