欲望トンネル
伏見稲荷に行ってきた。山全体が神社になっている様子がまず面白いが、稲荷の得意分野とされる商売繁盛の祈願だけでなく、風邪やせきを治してくれるという社に快癒を願ったはがきが届けられているなど、人間のあらゆる欲望、願望が渦巻いているようで非常に興味深かった。寺は庭もきれいでよいのだが、現世の切実さをより感じさせてくれる伏見稲荷にはわくわくさせられる。きりっとりりしい狐がまた男前でよいし。


そういえば、長野県の旧坂北村では今でも稲荷信仰が強く残っていて、7年に一度「狐の嫁入り」の祭がある。狐さんが火災を防いでくれている一方、犬が嫌いらしいということで、稲荷のある地区ではいまだにどの家庭も犬を飼っていない。迷信とは思っているが、万が一火事が出たとき、あんたのところで犬を飼ったからだと言われて村に住めなくなる、ということでみなさん今でも飼わないという。伏見稲荷にはいくつか狛犬も置いてあったので、中の人に坂北の話をしてみたが、いろいろな俗説があるがうちでそういうことを言っているわけではない、という話だった。別に何が正統というわけでもないだろうから、問題ないのだ。特におしえのようなものもなく、何でもありなところが日本の神のよいところであって、ごちゃごちゃうるさいことを言い出して国家に結びつけたあたりでおかしくなってしまったと思う。
イラク人のムスリムと話していて、唯一絶対の神アッラーを語る彼らに、日本には八百万の神がいる、というと、途方もない数字なだけに面白がって笑うのだが、無限であることとひとつであることはあまり変わらないようにも思う。あらゆるものに神が宿っているという話をすると、それはイスラムである、と言う人も少なくない。そこから、イスラムのほうが優れているという話にしてしまう人もいるが、宗教的な感覚としては共通しているのだ、といった具合で理解を示す人も多い。
イスラムでは偶像崇拝を禁じているはずだが、モスクが破壊されれば報復したりするし、たとえばシリアにある預言者の娘だかイマーム・アリの娘だったかの名前のついたモスクに、わざわざバスでイラクを通過して訪れるツアーがイランから来ていたりする。ムスリムの間でもマリアは慕われているし、神ではないとはいってもそれに通じるものであるかのように敬われているものはある。絶対的超越的な存在としての神はあまりにも大きすぎるので、現実の悩み苦しみを打ち明けて平安を求める対象としてもう少し分かりやすいものを設定する、ということは一神教、多神教問わずあらゆる宗教で行われていることである。伏見稲荷の欲望渦巻く鳥居のトンネルをそれなりに理解するムスリムも少なくないのではないか。
宗教の決まりの部分だけ見ているとムスリムらと付き合うのは面倒な印象だが、実際に付き合ってみると人間くささの面ではさほど違和感はないわけで、そういったものを原点として宗教が生まれてきたのだとすれば、他宗教を理解する、などと仰々しいことを言わずとも、現世の喜び哀しみを語り合っておればよいのだと思う。月並みだけども。
最近、イラクのシーア派の友人がシーア派の民兵から狙われて危険な状態にある、とのメールをもらった。報道では宗派対立などと分かりやすいようで理解しがたい話に集約させてしまっているが、宗派単位というよりは利権集団同士の抗争になっていて、シーア派同士でも血で血を洗う争いが広がっているのが現実だ。宗教、宗派の問題という精神的な内容に集約、もしくはすりかえることで現世の問題を見えなくさせ、わざわざ「理解しがたい話」として仕立ててしまっている。それがお手軽ということなのだろう。


![: 潮 2008年 06月号 [雑誌]](http://ecx.images-amazon.com/images/I/415eLkbVuTL._SL75_.jpg)
![: 論座 2008年 06月号 [雑誌]](http://ecx.images-amazon.com/images/I/51gIKnvZXJL._SL75_.jpg)
![: 世界 2008年 05月号 [雑誌]](http://ecx.images-amazon.com/images/I/51Y4V2Bt2DL._SL75_.jpg)

![: 論座 2008年 05月号 [雑誌]](http://ecx.images-amazon.com/images/I/11L%2B4-WZ1PL.jpg)


Comments
この伏見稲荷の赤い千本鳥居は、SAYURIにも出てきましたよね。
アメリカ人が、芸者の生涯をきっちり調べ上げ、その芸者を主人公としたドラマを映画化する。その時代の日本の明かりの具合まで調べ上げる。
「硫黄島からの手紙」では、何と日本語で日本人の俳優が演技する映画をダーティーハリーが制作。
そういう他文化に対する造詣と理解を誰もが持てれば、イラク戦争も起こらなかったのではないかと思う今日この頃です。
Posted by: マサガタ | Wednesday, December 27, 2006 at 04:13 PM
CBSの報道によれば、こんなところもあるそうです。
シーア派、スンニ派、キリスト教となどが数十年に渡り近所づきあいをしているため、争いはないとか。
http://www.cbsnews.com/stories/2006/12/22/eveningnews/main2293878.shtml
安田さんは国際派ジャーナリストですから当然英語は分かりますよね。
そういえば、ヨルダンで英語で会見に応えていましたよね。目隠しされたのを「blinded」と言っていたのが印象的でした。
blind-foldedが正しいのですが。
Posted by: マサガタ | Wednesday, December 27, 2006 at 04:34 PM
私が大好きな英文学の先生は日本の古典に造詣が深く、英文学を学べば学ぶ程、根本的なところがわからず、自分が日本人だと思うといってました。また日本や日本人は合わないとインドやオーストラリアに行ってしまった友人もいます。理解の仕方もいろいろですね。
Posted by: 速水 | Friday, December 29, 2006 at 10:00 AM
フセインの死刑執行に関してご意見を。
イラクは良くなりますか。
Posted by: マサガタ | Saturday, December 30, 2006 at 12:34 PM
むむむ。死刑確定から、4日で死刑執行かあ。民主主義社会じゃないな、アメリカは。。。。。。おそろしや。
まさがたさん、イラクは良くならないと思いますよ。アメリカの民主主義の形態と、イスラム社会は、まだ理解が遠いみたいなことを本に書いてありました。(外交官みたいな人が)。ネオコンの奴らは、勝手ですね。アラブ社会は、イスラムの教えを政治的に組み込んだ政治制度でしかうまくいかないみたいです。難民がまた増えたな。EUみたいな連合国機関が共同体原理をイラクに持ち込んだら、少しは良くなるかなあ。でも、当分はあれると思う。アメリカは何でよその国に口を出すのかね、まったく。
みなさん、粟野です。良いお年を。。。。。では。
Posted by: 粟野和彦 | Saturday, December 30, 2006 at 05:33 PM
マサガタさん 英語で会見した記憶はありませんがそうした映像でも流れましたか まああなたが印象を持つのはそういうところでしょう 日本語よりも英語のほうがお得意なようで。 あなたとは議論が成立しないうえに、事実に対する姿勢、人との接し方等において基本的に共有できるものがないこともはっきりしていますので、今後は買わないことに決めました 速水さん 英文学が理解できないということですかね。日本人というよりは英語圏の人ではないということなのでは。 日本が合わないという人は日本人にもいるでしょうね。日本という規定自体が人為的なものでしかありませんし。
Posted by: 安田 | Saturday, December 30, 2006 at 05:45 PM
ごめんなさい。どうも字だけのコミュニケーションだとトラブルが起きやすいですね。それもコメントだけだと誤解を与えやすいですね。
別に英語が間違っていたから駄目だとかいう意味で書いたのではありません。
私も英語は得意じゃありません。ただ、目隠しされたところを説明しているシーンが、そんなすごい体験をしたんだなと印象的だったと言うことを伝えたかっただけです。
目隠しされたって、blindedというのかとその時、初めて聞いて、その後、調べたら、blind-foldedがいいということを知りました。まあ、たいした違いはないと思いますけど。渡辺さんと並んで外で会見していたのがテレビに映っていました。ちょっと説明が足りなかったですね。英語で会見できるなんてかっこいいなと素直に思っていたのですよ。
CBSの報道だと、宗派に関係なく仲良くしているコミュニティもバグダッド内にあるとのことです。場所の名はアンニールとかいうそうです。
では、よい年を。これまでのご無礼お詫びいたします。一度としてけんかを売ったつもりはありませんので。
ブッシュもこれでいい年を迎えられると胸を撫で下ろしているのかも知れません。だけど、彼にはテカムセの呪いというのが待っているのでしょうけど。
Posted by: マサガタ | Saturday, December 30, 2006 at 07:16 PM
その先生は英文学を学べば学ぶほど、感覚的なところで日本の古典の方がしっくりいくそうです。確かに日本という国という分類は人為的ですね。
Posted by: 速水 | Saturday, December 30, 2006 at 07:37 PM
それから、答え忘れていましたのは、
男色を知らず、哲学的に戦国時代とかを語るのは、私の高校時代の古典の先生とかですね。
ゲイはアメリカにしかいないとか、人口の1パーセントしかいないんだとか、そういう風に言っていましたね。でもって、古典で日本書紀から好色一代男まで網羅していることを豪語していました。また、戦国武将の生き様を堂々と哲学的に語っていました。もしかして、その先生はゲイだったのかも知れません。
来年のお正月に「武士の一分」を見に行こうと思います。海猿よりは面白いことを期待しています。お歯黒と明かりの具合をしっかり観察しようと思います。
Posted by: マサガタ | Saturday, December 30, 2006 at 08:06 PM
安田さん、みなさま、よいお年を!東京は穏やかな年越しですね。それだけでも十分嬉しいです。世界が混沌としている中で。
さわ
Posted by: 沢宏子 | Sunday, December 31, 2006 at 08:23 PM
いよいよ海外に拠点を構えるのですね!
先ほどコメントを読みました。(遅い!)
つぶさに取材するためにはぜひとも必要なことなのでしょうね。
きっと、きっとうまくいくって
遠いところから応援しています
お友達や知人の方々がご無事であればよいですね
「目には目を」より
「己の欲せざる所、人に施すなかれ」で
ありたいものです
Posted by: えらこきう | Tuesday, January 02, 2007 at 01:55 PM
粟野さん
米国の口出しというか、死刑判決が出て即死刑、という展開は何も変わっていないイラクという印象を受けました
Posted by: 安田 | Thursday, January 04, 2007 at 06:04 PM
速水さん
ひとつには言葉の問題はありそうな気がします。同じ言葉を使っていても、その言葉の背景となる経験はみな違いますし
Posted by: 安田 | Thursday, January 04, 2007 at 06:15 PM
マサガタさん
「武士の一分」は見ないほうがよいのではないですか。すでに見ているという前提でしたので、これから見るということならばもはやあら捜しにしかならないと思います。すでに書きましたが、おはぐろはしていません。そういうところを問題にするかどうか、という点についてもすでに何度も書いています。
SAYURI、ラストサムライ、海猿、といったところを基準にしているマサガタさんとは感性において重なる部分があるとは思えませんし、時代考証というものについての考え方、映画についての評価方法などあまりに食い違っていますので、この話題を続けてもおそらくお互い不愉快な結果にしかならないと推察します。
もちろん見るのを止めはしませんけども。
Posted by: 安田 | Thursday, January 04, 2007 at 06:22 PM
沢さん
今年もよろしくお願いします
Posted by: 安田 | Thursday, January 04, 2007 at 06:23 PM
えらこきうさん
拠点を移すというよりも、長くなるかもしれないといったところです。早く帰るとすれば、それは構想どおりに取材が進まなかった場合、ということになりそうです
Posted by: 安田 | Thursday, January 04, 2007 at 06:24 PM
多忙のため、投稿をお休みさせていただきます。では。
粟野
Posted by: 粟野和彦 | Friday, January 05, 2007 at 10:37 AM
同じ言語を使っていても噛み合わないことはあをますからね。言葉は大切に、しかし言葉以外のコミュニケーションも大切に。ですかね?
Posted by: 速水 | Friday, January 05, 2007 at 02:46 PM
あけましておめでとうございます。
一連の議論の元となった書籍を紹介したJANJAN記事を紹介します。
外国人に教えられる日本
http://www.janjan.jp/culture/0701/0701037552/1.php
では、今年もお元気で。ご活躍を楽しみにしております。
私は安田さんとの議論で不快感は感じていません。
むしろ、勉強になりました。
Posted by: マサガタ | Friday, January 05, 2007 at 08:24 PM
粟野さん
余裕ができたらまたおいでください
速水さん
言語以外のコミュニケーション手段は大事ですね。実際はいろいろな手段を組み合わせてコミュニケーションをとるわけで、メールのみなどになると、それらの能力が衰えていくと思います。だからそういう力を養うためにも、若者は街に出てナンパすべし、されるべし、と考えます。
マサガタさん
学校で教えられる「日本」がいかに中途半端かついい加減であるか、という点については同意します
Posted by: 安田 | Saturday, January 06, 2007 at 04:44 PM
ナンパは自己アピールそのものですね。成功率はいろいろな条件に左右されそうですが。
Posted by: 速水 | Sunday, January 07, 2007 at 03:15 PM
自己アピールもありますが、危ない相手なのかそうでないのかなど、お互いに総合的な判断が求められます。どうすれば相手を安心させられるかといった人付き合い能力も重要です。される側も、無視するよりはいかにうまくあしらえるかを重視したほうよいでしょう。問題はそういうやりとりを楽しむ余裕があるかどうかです。
Posted by: 安田 | Sunday, January 07, 2007 at 05:18 PM
そうだね。何事も余裕が大事!年頭にふさわしいね。
Posted by: 速水 | Sunday, January 07, 2007 at 08:21 PM
昨年ナイジェリア人にナンパされた私はどうすればよかったのでしょうか、、。年頭にはロシア人にナンパされました。今年が少し見えました
さわ
Posted by: 沢宏子 | Monday, January 08, 2007 at 09:09 AM
コンビニでかっこいい男の子に会いました!
私の一歩先に店内に入った、GSのつなぎを着たワイルドな感じの彼が
そのまま振り向かないでドアを後手で支えて一緒に入れてくれたんです。
ほんの一秒の事ですが、どきっとしました。長くていい腕だったなあ。
忙しいのか、テレなのか、この一秒をくれる人が多くはないようです。
みなさんにも真似してモテてほしいです。
Posted by: しっぽ | Monday, January 08, 2007 at 09:55 AM
あれまあ
みなさん年始早々よい出会いがあったようで。
一瞬の気遣いを積み重ねられるかが大事なのでしょうね。
Posted by: 安田 | Thursday, January 11, 2007 at 04:26 AM
安田様
年下恐怖症に陥っている私にはあまりよい出会いでは、、なんといってもその落ち着いたロシア人2人組は10歳も年下だったのですから!イケメンの上、優しく、日本語も堪能。大学院生でロボットのことを勉強していると言っていました。私が自分の年齢を正直に言っても信じてもらえず、免許証まで出したのに「渋谷でつくったんでしょー」と屈託のない2人。どうして年上の免許をつくるんじゃい。高校生じゃあるまいし。ついに私の友人(彼女は江戸川区在住のロシア人)に電話し、「子供がいる」というウソまでついてもらい、解放されました。
でもちょっと惜しかったかな、イケメンだったし
さわ
Posted by: 沢宏子 | Thursday, January 11, 2007 at 11:44 PM
沢さん
やさしくて知的でイケメンならそこまで強引でも惜しいと言わせられるわけですね
楽しいですなあ
Posted by: 安田 | Wednesday, January 17, 2007 at 05:52 PM
安田さま
ナンパとはギャンブル。ギャンブルとは人生、ですなあ
さわ
Posted by: 沢宏子 | Wednesday, January 17, 2007 at 06:09 PM