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Monday, August 08, 2005

情報ノート状態

 前回の日記更新以降、ダマスカスに沈んでいる。自室でビールを飲むために当初はシングルの部屋にいたが、街のあちこちにバーがあることが分かったのでより安いドミトリーに移動した。沈んでいるとは言っても、午前中は暑いのにちょこちょこ散歩しているし、昼間は旧市街のオマイヤド・モスクで昼寝しないといけないし、夜は飲み屋でビールを飲まないといけないし、結構忙しいのだ。
 旧市街に近いマルジェ広場にある飲み屋で知り合ったモロッコ人内装職人37歳はサウジで6年間出稼ぎをしていて、今回は歯の治療のためにシリアに来ていた。貧乏人に優しいシリアならサウジでの半額以下で治療できるらしく、サウジからシリアまでの直行バス25ドルに乗ってはるばるやって来たわけだ。
彼は、昨年は2万ドルも稼いでかなり景気がよかったようだが、今年はあまり仕事に恵まれていないらしく、朝からあまりメシも食わずにビールに資金を集中させていた。サウジでは裏ではビールも飲めるらしいのだがかなり面倒らしく、夏になるとサウジからシリアまで避暑にやってきてビールを飲みまくる人が結構いるようだ。彼は「サウジに帰ると飲めないのだ」と言って、うれしそうにビールをグラスに注ぐ。泡が出過ぎないようグラスを傾けて慎重に愛しそうにビールを注ぐムスリムの姿を、ここではたくさん見ることができる。日本人でも、グラスを置いたままどぼどぼとビールを流し込んで泡だらけにしてしまう愛情の薄い人がかなりいる一方、ここにいるムスリムはあまり飲む機会がないからなのか、そもそも飲酒が禁じられているからなのか、ビールに対する愛情の度合いがより強いようで、ここでは私は「ムスリム」に対して共感することができる。
 イスラム社会では喫煙は禁じられていないようなので、連中タバコをばかばか吸う。タバコの煙を憎む私はインターネットカフェなどに行くのはかなり苦痛だ。公共の場での喫煙は、吸いたいという自分の欲望を満たすために、周囲の人間が清浄な空気を吸えたはずの環境までも奪い取るという最悪な行為なのだが、それでもイスラム社会では禁じられていないということで、連中ちっとも気にせずに吸っている。しかし、飲酒は禁じられているので、たとえ穏やかに誰にも何も強制せずに飲んでもだめだし、一人で部屋で飲んでもだめということになっている。よりイスラム的な社会になればなるほど、預言者ムハンマドに下されたという神からの啓示で禁じられていない行為は禁じない、という社会になるのだろうか、という基本レベルであろう疑問を感じながら私はビールを飲んでいる。
そういえば、イラクで進められようとしている憲法起草では、シーア派側がイスラム的なものを盛り込もうとしているという。場合によっては例えば女性の社会進出などはサダム政権時代以下になるかもしれないし、町のあちこちにあった酒屋も閉まってしまうかもしれないし、予断を許さない。慎重な議論をしようともしているらしいが、日程を守ることを優先させたい米国の意向が強く働き、とりあえず日程どおりで進めるもようだ。もっとも慎重に行なうべき場面なのに、それをさせたがらない米国政府は中東の民主化を進めたいそうだ。
 ちなみに、ヨルダンに逃げてきているイラク人の友人は最近禁煙を始めたらしく、タバコが欲しくなるとタバコのことしか考えなくなるのが面白い、と今のところ楽しんでいる様子だった。今後も続くかどうかが焦点だが、こういうムスリムにも共感を覚えるので今後も応援したい。
 話を戻すが、このモロッコ人は英語ができず、こちらの片言以下のアラビア語もなかなか通じないのだが、ビール仲間ということで仲良くなり、一緒に市場を歩いたり風呂屋に行ったりして遊んでいた。彼は、一ヶ月に700ドルくらい稼げればかなりよいらしく、そういうときは200ドルくらいを両親に送金しているらしいが、6年間家族に会っていないという。ここで私が彼の写真をたくさん撮って紙焼きしたものをあげているので、両親に自分の写真を送れるかも、と喜んでいた。ちなみに、飲酒中の写真を見られると怒られるので送らないらしい。高価な水タバコも怒られるので送らないと言っていた。サウジではある貧しい家庭の娘に恋をしているそうで、電話で話すくらいはできるらしい。日本的な男女交際とはあまりにも違う習慣の中で口説かなければならないので、いったいどうするのか見当もつかないが、まあ頑張ってほしいと思う。まじめなムスリムになりきれず素朴に生きているこういう男はけっこう好きだ。治療を終えて、今頃サウジに向かっているはずである。
 と、こんなことをしているうちに、ついに引っかかりました。ラマディ在住のイラク人。元イラク空軍整備士という年配の男性と、教員学校教官という男性の二人組で、飲み屋に来るのだから当然ビール好きのフマジメムスリムである。数日間の避暑に来たらしい。
教官によると、給料がしっかり支給されているので避暑に来て遊ぶこともできるという。戦前は1ドルが公定で2000イラク・ディナール、闇で2500ディナールほどだったが、一ヶ月の給料が7000ディナールだったらしい。それが今は1ドル1500ディナールに対し、給料は250ドル出ているという。一方、物価は上がっていて、例えばトマトは戦前は1キロ100-200ディナールだったのが、今では700ディナールまで上がっているそうだ。このあたりの数字は私自身がイラクで聞いてきた数字とほぼ一致しているが、現在そこまで値上がりしているとは思わなかった。さらに、前にもほかのイラク人に聞いてここに書いたが、配給の小麦も米も砂糖もなくなったので買わないといけない。自由経済というものになっているのかもしれないが、金のない人にとってはやはり厳しいだろう。この教官の場合は給料が上がったので、「物価についてはどっちもどっち」という印象という。
 一方でラマディといえば激戦地アンバール州のど真ん中ということで、かなり激しく戦闘が起こり、あちこちで爆発も発生しているという。戦前なら夜でも普通に出歩けたし、安全面では何も問題なかったのに、今となっては夕暮れ前には家に帰らないといけないし、いつ戦闘に巻き込まれるかも分からない。サダム時代、この教官の父親は警察の結構な地位にいたらしいが、反サダムの姿勢をとったために殺されたという。90年代後半にラマディ、ファルージャ一帯で起こった反乱の件と思われる。彼は「サダムはひどかったし、やりかたが賢いとは思えない」としているが、「今と比べるとはるかによかったので、自分も周囲のみんなもサダムの帰還を望んでいる」とビールを飲みながら言った。
 ここらでだんだん酔ってきた教官は、「あした一緒にフーゾク行こうぜ」と言い出した。ようするに買春だ。モロッコ人含め、4人で3部屋くらいを借りて、一人500シリア・ポンドくらいでいける、という。イラクにも戦前から売買春はあるし、シリアにもヨルダンにもあるもようだ。教官はモロッコ人にいろいろ注意している。聞くと、「シリアは前のイラクと同じタイプの国だ。フーゾクは禁じられているのでムハバラート(秘密警察)に気をつけろ、と彼に言ったのに、ムハバラートの怖さを知らないので分かってないのだ」という話だった。シリアは米国から、国境から反米戦士がイラク入りするのを見逃している、と批判されているのに対し、国境警備を厳重にし、何百人もの反米戦士を捕まえて本国に送還している、と反論しているという。ラマディ在住の彼らは反米闘争をしているわけではないようだが、イラク人への警戒が強化されているようなので、彼らも慎重になっているもようだ。「行くか行かないかは別にして、あしたここでまた落ち合おう」と言われたのだが、結局彼らは現れず、その後イラクに帰ったという。
 この間、バグダッド・ドーラ地区在住シーア派イラク人エンジニアという友人からは、一年ぶりくらいにメールが来た。ネットカフェを昨年始めたがすでにやめ、ほかに仕事を得たという。彼の家では電気も水も出ていて生活はできているようだが、「サダムの仲間たちがイラク人殺しまくっているし、イラクに来ると連中に首切られるから来ないほうがよいよ」と言ってきた。やはりスンニ派とシーア派では言っていることがぜんぜん違う。それでも両派とも住民レベルでは混ざり合って暮らしており、宗派の争いというよりは、宗派を支持基盤とした利権組織同士の争いと、それに巻き込まれる各宗派の住民、と考えたほうが分かりやすいと思う。
 米軍によって大半を破壊されたファルージャについてはほかのバグダッド在住スンニ派イラク人元エンジニアという友人からメールが来て、ファルージャの中に協力してくれる人はいるが米軍が包囲しているので外国人は中に入れん、と言ってきた。ファルージャ住民だけの身分証明書も作られているので、自分も入れないらしい。彼の住んでいる地域も反米闘争が激しいので様子を聞きたいのだが、家にネット回線を引っ張っているものの、通電状況がよくないようなのであまり頻繁に連絡をとれないのが残念だ。
 アブカマルの弁護士とはちゃんと連絡がつき、彼も無事、普段どおりに生活しているようなので安心した。彼が書いてくれた電話番号はアラブの数字で、どうも国によって数字の書き方も微妙に違うようなので当初は電話が通じず、何かあったのかと心配になったが、なんとか解読して通話できた。リベンジ策を今後いっしょに練りたいと思う。
 とまあ、こんな調子で何をするわけでもなくだらだら忙しくしている間に明日帰国である。もうちょっと雌伏のしかたを考えないといかんなと思いつつ、時間的に今回はしょうがないやと、またこれからだらだらする予定。今回の日記も情報ノートレベルだが、一応残しておく。

 シリアの電話ですが、金を入れずにほうっておいたらSIMカードが無効になっていました。いまの番号は 098451384 です。

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Comments

で、けっきょく安田さんはフーゾク行ったの?

Posted by: wattan. | Monday, August 08, 2005 at 09:22 PM

暑い毎日にきれいな泡のたったビールをおいしそうだなとイメージしてました。OKがでたのでカンパイしたのにところが苦くておいしくないのです。がっくりです。気持ちはとっても愛おしいのですが…

Posted by: 速水 | Tuesday, August 09, 2005 at 12:49 AM

わたーん さん

連中いないし行き方も知らんですよ
連れてかれるのが本当にフーゾクだったのかも分からんわけですし

Posted by: 安田 | Tuesday, August 09, 2005 at 01:55 AM

速水さん

うまくないなら飲む気にならんですね
これを気にやめろってことかも・・・

Posted by: 安田 | Tuesday, August 09, 2005 at 01:59 AM

おいしくなるのか、もう飲めなくなるか!ケセラセラですね。でも安田さんは気をつけてちゃんと帰って来て下さい。

Posted by: 速水 | Tuesday, August 09, 2005 at 10:57 PM

また、安田さんに読んでもらいたい記事があります。

アメリカ人と日本人の会話 原爆について
http://www.janjan.jp/living/0508/0508060486/1.php

思うのですが、イラクの人は南京虐殺なんて知っているのですか? 広島・長崎を知っているのは意外ですよね。

Posted by: マサガタ | Tuesday, August 09, 2005 at 11:38 PM

>マサガタさん

イラク人が小野田寛郎さんの人生を知ったらどう思うでしょう?これも興味ありますね。

Posted by: wattan. | Wednesday, August 10, 2005 at 12:39 AM

原爆が1個ならば、アメちゃんの主張にも同意できるのだが、短期間に2個ですからね。単に実験データが欲しかったのでしょうけど。

Posted by: けんたうろす | Wednesday, August 10, 2005 at 08:49 AM

無事に帰国されましたか。「ホテル・ムハバラート」とか、「緊急退避」などは、異国の地に迷い込んだサムライが秘密警察に狙われる推理小説を読んでいるようでした。しかし、これは実体験なのですね。驚くばかりです。

私は今、カナダで1ヶ月夏期講義を受けています。日本の夏とは違い、過ごしやすくて快適です。街を行く人々はいろいろな人種が交じり合っていますが、それぞれが節度をもって生活している様に見えます。しかし、カナディアン・インディアンを犠牲にして今の文明がある国なのだなっと、時々考えてしまいます。最近、最後のアメリカン野性インディアン、ヤヒ族の「イシ」という人の存在を知りました。アイヌはアイヌ語で人間という意味らしいですね。「イシ」というのもヤヒ族の言葉で人間という意味らしいです。「イシ」はたたずまいに威厳のある、そして深い叡知をもつ人物だったようです。「死滅言語」の課題を提出したら帰国しますが、手塚治虫も「イシ」を主人公にした作品を残しているらしいので、帰ったら読みたいです。

純平さんがアラスカに行かれた時は、「イヌイット」のことを調べたりされましたか。人間は単純な、しかも、似たようなあやまちを繰り返しているなと思う次第です。きっと、イラクで起こっていることもこういうことかなっと単純に結びつけて考えました。カナダにいても電子版安田純平が読めるので不思議な気分です。ますます世界は狭いと実感しましたが、人の心は遠いままです。

Posted by: ドキン | Sunday, August 14, 2005 at 04:45 PM

アメリカは沖縄戦くらいの抵抗を本土でもやられたらやばい、との感覚もあったでしょうが、タイプの違う二個、となるとやはり実験でしょう。日本も研究してましたから、どちらが先に実験するか、ということだったかもしれませんが。

Posted by: 安田 | Monday, August 15, 2005 at 12:30 AM

ドキンさん

アラスカに行ったときは多少調べたりはしましたよ。フランク安田が「イヌイット」とつくった村ビーバーにも行ってきましたよ。私と彼は関係はないですが。
基本的には内陸を動いてましたので、接したのは「アサバスカ・インディアン」と呼ばれている人々です。当然、生肉は食いませんし、イクラはぽいぽい捨てる人々です。若者は教育を受けに外に出て行きますが、帰ってくることはほとんどないようでした。かなり激しい抵抗をした人々ですが、やはり「アメリカ」によって滅ぼされようとしている様子が実感できました。

アメリカはイスラエルと同様、現在進行形で先住民を「隔離」しているわけで、繰り返すというより、存在そのものがそれそのものなわけですね。

Posted by: 安田 | Monday, August 15, 2005 at 12:46 AM

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